人生栗色

観たり読んだり考えた記録

5年前に一生忘れられない舞台と出会った話

今年も6月がやって来ました。
私には毎年6月になる度に思い出す舞台作品があります。
冒険者たち~The Gamba 9~』
今から5年前の2013年6月6日~22日、池袋サンシャイン劇場と今はなき名鉄ホールにて上演。
内容は、テレビアニメ『ガンバの冒険』でもお馴染みの、斎藤惇夫原作『冒険者たち ガンバと15ひきの仲間』を題材にしたミュージカル作品でした。

http://papageno-net.com/boukensha/

<スタッフ>
脚本/演出/作詞:菅野こうめい
作詞:うえのけいこ
音楽:大石憲一郎
振付:振付稼業air:man
<キャスト>
ガンバ:上山竜司
イカサマ:辻本祐樹
シジン:大山真志
ボーボ:土屋シオン
忠太:山下翔央
潮路:皆本麻帆
一郎:和田琢磨
ツブリ:延山信弘
アンサンブル:堀田勝/岩下政之/逢沢 優/杉本 崇/穴沢裕介
ガクシャ:森田ガンツ
マンプク:金澤博
ヨイショ:坂元健児
ノロイ今拓哉
オイボレ:尾藤イサオ

今思うと錚々たる名前が連なっていますが、当時の私はこの顔ぶれの貴重さがあまりわかっていませんでした。
冒険者たち~The Gamba 9~』は通称“ネズミュ”と略され、公式Twitterなどでも宣伝がなされていました。
当時“〇〇ミュ”と名のつく作品は今ほど多くなく、2.5次元舞台というブランディングも確立されていない時期だったと思います。
キャストたちがネズミの耳を付けたポスタービジュアルと“ネズミュ”という呼称から、ケモミミを付けたイケメンたちが歌い踊る女性ファン向けの舞台かな?という先入観を持っていました。
キャストの中に推しと呼ぶほどの役者さんはいませんでしたが、目の保養と耳の保養にはなるだろうという軽率な気持ちで一度だけ観に行くことにしました。

何の期待もせず気楽に足を運んだ当日、サンシャイン劇場に辿り着いた瞬間からネズミュワールドは始まっていました。
まず、ネズ耳をつけた妖しげなピエロが入口の前に立っています。最初はギョッとして近寄れませんでしたが、お客さんを迎え入れながら披露する見事な大道芸に、気付けば周りは笑顔に包まれ拍手を送っていました。
ロビーに足を踏み入れると、既に衣装を身にまとったアンサンブルキャストたちが座席までエスコートをしてくれたり、手品で客席を盛り上げたりしてくれます。
開演前からの徹底された世界観作りに「ここはネズミューランドだ!」とすっかり子供のようにわくわくさせられていました。

そして終演後、「ああ私はこの舞台と出会うために今まで観劇を続けてきたのだ」と思いながら客席でボロボロ涙を流す自分がいました。

ストーリーはご存知の通り、主人公のガンバが仲間を増やしながらイタチとの戦いに挑む、単純明快な冒険活劇。
しかしそんなシンプルな話だからこそ、出会いと別れの尊さや作品に込められたメッセージが、良質なお芝居と歌によってぐっと観客の心に響いてきます。
若手俳優がネズ耳つけて歌って踊るだけ、などと考えていた私の頭をガツンと殴るような、本格ミュージカルに圧倒されました。
頭角を現しつつある若手俳優たちと、それを支えるベテランミュージカル俳優の重厚な歌声に、これは本当に池袋で観ていい作品なのか?ここは日比谷ではないのか?と思うほどのクオリティ。
引き込まれる脚本、個性豊かなキャラクター、キャッチーで耳に残る楽曲、一人一人こだわられた衣装、演出に合わせた舞台装置。
どれを取っても素晴らしく、また歌やダンスだけでなく空中パフォーマンスまで盛り込まれた高いエンターテインメント性に、観るまでは少し高いと感じていたチケット代8000円なんて今考えるとタダ同然でした。

私はすぐに2回目の観劇を望みましたが、その時期は当時推していた俳優の舞台期間と被っており、あまりチケットを増やせない状況でした。
余談ですが既に複数枚取ってしまっていた推しの舞台は蓋を開けてみたら全く私好みの作品ではなく、客席に座りながら「私はなんで今ここにいるんだろう。なんでサンシャイン劇場にいないんだろう」と考え出す始末。
この時の心境を“好きな男の腕の中で違う男の夢を見る”現象と名づけました。(心底どうでもいい)
そんなフラストレーションを抱えた反動もあり、私は無理をしてネズミュの観劇数を増やし、涼しくなった財布と引き換えに感動で胸を熱くしました。
最初はちらほらと空席の目立っていた会場も、回を重ねるごとに口コミが広がり客席が埋まっていったと記憶しています。
一度でも観た人は、口を揃えて素晴らしい舞台だったと褒めていましたし、否定的な意見をあまり見かけない稀有な作品だったと思います*1
そうして東京公演最後の観劇を終えた後、もうあのネズミたちと海の旅が出来ないのだと思うと淋しくて悲しくて、池袋駅までの道のりをずるずるに泣きながら歩いたことを覚えています。
結局我慢の出来なくなった私は、名古屋まで足を運び大千秋楽を見届けるのですが……。

全てが終わってしまってからはロスがひどく、キャストさんのブログや公演の記事などを巡回しては画像を保存する日々。
特に、ボーボ役の土屋シオンくんはネズミュに対する深い想いを人一倍ブログに書き綴ってくれていました。
ボーボという役が本来の彼にとても近いのだと、特別な思い入れを語ってくれたことにとても嬉しくなりました。
唯一公開されている稽古中の動画は、今でも年に数回再生し薄れゆく記憶を手繰り寄せています。
キャストさんも演出家の菅野こうめいさんも演劇ライターさんも勿論当時舞台を観た人たちも、何年経ってもふと思い出して語り出すことがあるような、そんな印象的な舞台でした。

アンケートは毎公演、読みにくいほど細かな文字で両面びっちり記入しました。
再演希望の声も多かったようですが、出演者の一人から「数年先までスケジュールが埋まってるキャストもいるので今後同じメンバーが集まるのは難しい」というようなお話を聞きました。
舞台はその時限りのものというのは重々承知していましたが、DVD化とCD化の希望だけはアンケートだけでなくTwitterにもしつこく書き続けました。
一人でも多くの人に見てもらいたい、未来の子どもたちにも見てほしいと思える作品だったので、どうしても記録に残してほしかったのです。
撮影が入っていないのは知っていましたが、ツブリ役の延山さんがテレビ出演された際に、ネズミュで披露した空中パフォーマンス“エアリアル”の映像が使われていたので、その記録用の定点映像でも構わないから円盤化してくれ!と切実に声を上げ続けました。

しかし待てど暮らせど円盤化のお知らせが来ないまま月日は流れ、もう制作会社に就職するか盗みに入るしかないのでは?と非現実的なことを考え始めた頃。
制作会社アトリエ・ダンカン倒産のニュースが演劇界隈を騒がせます。
さすがに、こんなに絶望することがあるのか、と目の前が真っ暗になりました。
もうあの時のあのメンバーでのネズミュは二度と見ることが出来ないのだと現実を突きつけられた思いでした。

それでも諦めの悪い私は、いつかどこかの制作会社がネズミュ上演の権利を得て、当時に近いキャスティングで再演される日が来るのではないかと夢見ています。
その際に2013年版ネズミュのDVDもしくはCDが物販に並んだら最高!
言霊を信じてこれからも口にし続けていきたいです。
ネズミュに出会ってから早5年、今年もまた6月の雨を大海原に見立てながら、ネズミたちとの冒険を思い返して過ごすことでしょう。

 「死する時、我ら皆、海の藻屑となりえんことを!」

 

*1:運営に関しては初日にトラブルがありましたが、そのネガティブイメージを覆せるほどの出来栄えでした